家族とタイル、新しい暮らし。 #2
暮らし方がとても見直される時代になりました。目まぐるしく変化する社会情勢や自然災害などの影響は、生活や住まいにより本質的な豊かさを求めるムーブメントのきっかけとなりました。
今、新しい家をつくる。そして空間にタイルを使用することを決めた家族を訪ねました。空間をいかに創造的に使い、家族との時間をどう豊かに過ごすか。居心地や質を求めた結果のひとつに、タイルという選択をした家づくりの現場です。今回はタイルを張っていく施工工程から、空間が出来上がるまでの過程を追いました。さて、空間の中で大切にしたい価値観や理想の暮らし方とは。
都心、夫婦共働き、子育て。築50年のマンションをリノベーション
スピードの早い環境の中で、多忙なスケジュールを送る潤さん、直子さんご夫妻は結婚後、社宅住まいでした。オリンピックに向けた建物の取り壊し退去に伴い、新しい居住スペースを考えることに。
検討を重ねた上で潤さんと直子さんが出した結論は、築50年を越えるマンションをリノベーションするという選択でした。
そしてなんとこのご夫婦、共に建築設計を生業としています。
普段は住宅や施設など建物を作りたい人々を相手に設計を行う潤さんと直子さんですが、自分たちが暮らす空間は自分たちで作ってみたいという想いがありました。施主と設計の二役を同時に担えるのはまさに建築家ならではの醍醐味。斯くして建築家による、建築家のための自邸作りが始まりました。
マンションのリノベーションはまず躯体の確認を行い、どの部分を遺し新たに調理可能な部分がどこかを調べる必要性があります。
確認すると住戸のちょうど真ん中に空間を真っ二つに隔てる大きな界壁がありました。
潤さんと直子さんは、その壁を起点にLDKの機能を持たせる生活面(A面)、そして暮らしながら使い方を決めるアトリエ面(B面)というスペースに分けることにしました。住まう中で子供の成長や職場の変化など変化はつきもの。柔軟に対応できる余白をB面に持たせることにしました。
タイルだったら、表情を豊かにできる
水まわり空間の豊かさを大切にしたかったお二人は、よりプライベートの性質が強く、水まわりが集中するA面スペースにタイルを使用することにしました。タイルは他の建材より表情豊かにできるのではというアイディアを持っていました。
浴室はせっかくなら素材をしっかり使ったホテルライクなテイストにしてみようと、採用したのは変形六角形の釉薬の色ムラが特徴的なタイルでした。
また同シリーズの正方形タイルをアクセントとしてライン使いに。
洗面室と浴室はカーテンで仕切られるだけの連続した床となるため、床タイルは同じシリーズで内装用と外装用を張り分けました。
タイルは人の好みが最も反映されるマテリアルと感じていた潤さんと直子さん。決して広くはないスペースでしたがこだわりと品が感じられる上質な空間に仕上がりました。
そしてキッチンに使用したのはマスタード色のタイル。ピースごとにあるほのかな色ムラとマットな質感が壁一面を覆い、一段とモダンな印象になりました。
ステンレスの厨房の雰囲気を持つフレームキッチンのセットとなる壁面に印象的なタイルを張ることでよりキッチンのプロダクト性が際立ちます。
自邸だからこそ思いっきりタイルを使ってみたい。その想いは、浴室、洗面、キッチンそれぞれに個性をもって反映されました。
結果的にタイルによってA面、B面の対比が際立ち、全体の構成の要にもなりました。
潤さんと直子さんは共働きの子育て世代なので、平日はコンパクトな生活が適しています。しかし、休日は家での過ごし方に夢を持ちたい。ワークライフバランスと今後の生き方や価値観が柔軟にシフトするように、空間にも可能性をのこし家族の生き方を実践できるスマートでクリエイティブな自邸が完成しました。
家づくりを終えて
壁の少ないシンプルな構成のプランですが、タイルによってそれぞ
れの場所がユニークなキャラクターを持ち出し空間に豊かな変化を作ってくれました。
施主であり、設計者である立場での設計作業はとても時間のかかる作業でした。でも、2人でああでもないこうでもないと案を練る時間は思い返せばとても楽しい思い出です。また機会があれば(?)自邸を設計してみたいです。
キッチン:内装壁タイルHi-Ceramics「15Thirty」
洗面室:内装壁モザイクタイルBISCUIT「Micro Mosaico」
浴 室:内装壁タイルHi-Ceramics「Muschel」
内装・外装床タイル Hi-Ceramics 「Beren」
aiuは、タイルや素材の原点にある「焼きもの」のいろはを学んだり、
まつわる様々な景色を旅しながら、その素晴らしさをご紹介していく新たな情報ツールです。
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