柔らかいピンクのテラコッタから土の温もりや、どこか繊細な雰囲気を纏うタイル、Unravel(アンラベル)。一見とてもシンプルなブリックの様でありながら上品な表情を持っています。 このタイルは、イランイラン一級建築士事務所の建築士、藤川氏と金氏がオリジナルで作ったデ ザインを、平田タイルが製品化したもの。これまでにない新しい試みで誕生したUnravelとその制作秘話をご紹介します。
▲左:藤川さん 右:金さん
–まず簡単な自社紹介をお願いします。
金さん:店舗、住宅の設計を行なっているイランイランです。 永く愛される、普遍性のあるモノづくりを目指していて「美渋」という美意識を掲げ、設計活動をしています。
–今回アンラベルを作成しようと思った経緯を教えてください。
藤川さん:住宅案件で創ろうとしている空気感にベストなマテリアルが見つからなかったというのが大きいです。
常に一点物を作るという気持ちでデザインしているので、今回はプリミティブとミニマルな雰囲気の融合というテーマに沿った素材を探していました。
土の荒々しさとモダンなスタイリッシュさ、その中間のマテリアルを探して思考を重ねた結果 オリジナルタイルを作れないかという発想になり「アンラベル」に辿り着きましたね。
▲右:アンラベルの発想元となったブロック 土っぽさをイメージし、工場を見学したところ土の表情が残るブロックを発見し、その表情を活かし形状を検討した。左:アンラベル
–初めてタイル作りをご経験されたとのことですが、オリジナルタイルを作る上で不安だったことはありますか。
藤川さん:タイルは「焼きあがってみないとわからない」ので色のムラや釉薬の乗り方が思った通りにうまく行ってるかなという不安は完成するまでありました。 ただ工場の方も、ものづくりに熱い方だったので最終的にはいいものが出来上がったなと思っています。
▲オリジナルタイルを手掛け実際に貼った住宅
–お施主様からの反応はいかがしたか。
藤川さん:実はご提案の時にお施主様から「正直想像が出来ない」と言われたんです。 私たちは最終形を想像していますが、お施主様は初めてみるタイルの壁に違和感を感じたんでしょうね。
金さん:その違和感もある意味正解かもしれなくて、最初から違和感がなければクライアントの想像を超えることができなかったということなので。
藤川さん:タイル以外の要素はモノトーンを基調としてかなりミニマルにおさえ、照明もあえて明るくせずタイルの陰影を出すように仕上げました。 最終的に空間全体の仕上がりには非常に満足をいただけて、お施主様から「引き算のバランスが絶妙」とのお言葉をいただきました。
–カタログに掲載されたことで何か変化はありましたか?
藤川さん:お施主様に掲載を喜んでいただけたのが嬉しかったです。同業者の方から興味を持っていただけたのも純粋に嬉しいし作って良かったなと思いました。自分達が思い描いたものが平田タイルのカタログ商品になったということも自信に繋がりましたし、今までの積み重ねが形になったなという気持ちです。
–設計士がオリジナルでタイルを作ることについてどう思いますか。
藤川さん:プロダクトデザイナーと設計士では開発において思考のアプローチの仕方が違うと感じます。私達は空間のバランスからの発想を形にするので、個性よりも空間に自然と馴染むプロダクトが出来上がります。『一点もののマテリアル』を作るのではなく、『一点ものの空間』を作ることを目指しているからです。空間を作る要素という発想で開発ができるという点では設計士が作ると新しいものができあがるのではないでしょうか。
–イランイランさんにとってタイルとはどういう素材でしょうか。
金さん:私達は設計する上で人間らしさということを意識しています。 “Simple is the Best” が必ずしも人間的ではなくて、少しの違和感や癖がある方が魅力があり愛着が湧いたりしますよね。 タイルはその違和感や癖のようなところにとても収まりが良いんです。
藤川さん:タイルは火を使って作られていますよね。火は自然のものなので人間は細部まで操ることが出来ない。 人工物なんだけども不完全という自然素材に近い偶然性がタイルという素材にはあると思います。日本の焼き物文化で表現されるような偶然性を『アンラベル』で表現できたのかなと思っています。
–今後の活動展開で計画していることはありますか。
藤川さん:新しい案件に向けてまたオリジナルタイルの制作を検討中です。 アンラベルよりミニマルなものをイメージしていますが、アンラベルを制作したことで素材の可能性をさらに感じていて、再生材などにも挑戦していきたいと思っています。 今の時代にもマッチして、今後も繋がっていく普遍さを表現できたらと。
お話を伺う中で、イランイランさんが創る空間はタイルの貼られた壁が見せ場ではなく、「空間の要素を優しく受け止める器」として素材が存在しています。アンラベルのデジタルでは表現することのできないテクスチャーや色ムラが今の時代に安らぎをもたらすプリミティブで有機的な要素を与えてくれるのではないでしょうか。
イランイラン一級建築士事務所
金瑛実 [Yeongshil Kim]
藤川祐二郎[Yujiro Fujikawa]
近藤道太郎[Michitaro Kondo]